英語の冠詞(a、the)や、単数・複数名詞を正確に使うことができる日本人はどれだけいるでしょうか。
使い方が不正確であれば、日本語で言うところの「てにをは」ができていない状態に聞こえ、ネイティブにはとても不自然に感じられます。
この問題は、冠詞や単数・複数名詞の概念は非常に奥深いので、日本の学校教育では教える内容を簡素化していることに原因があります。
授業時間が限られることから、仕方がないのですが、簡素化の事実を生徒に伝えません。
結果として生徒が成長し、TOEICで高得点を目指したり、外国人と話したりする環境に置かれると、冠詞や単数・複数名詞の選択に迷うことが頻繁に出てきます。
そのような時に使いたいのが、文法書「謎解きの英文法 冠詞と名詞」(くろしお出版)です。
本1冊約180ページを使い、冠詞と名詞に絞って、語法を解説しています。
平易な言葉で書かれているので、小説のように楽しく、どんどん読み進められます。
私はTOEIC880点の頃に読み、当時抱いていた疑問の多くが解決しました。
英語学習の上級レベルに進んだ大学生や社会人にオススメです。
中学で覚える語法はごく一部
中学校では、次のように習う方が多いのではないでしょうか。
- I have a pen.
- (私はペンを1本持っている)※「a」で1つの個体を表している
- I want to buy the pen.
- (私はそのペンがほしい)※「the」を「その」と、ある物体を指し示すために使っている。
- There are some pens on the table.
- (ペンが数本、テーブルの上にある)※ある物体がいくつかあるときは、「pens」と名詞を複数形にする。
この語法は全くもって正しいのですが、「a」「the」「複数名詞」が持つ役割の一部に過ぎません。
学習が進むにつれ、中学で習った文法では説明がつかない場面に出くわすことでしょう。
もちろん中学校で習った語法だけで、高校入試には対応できます。ただし、本来学ぶべきものは、もっとたくさんあることを知りましょう。
高校英語
高校英語で、覚えなければならない冠詞、複数名詞の語法は増えます。
結構、数が多いので大変です。ロイヤル英文法(旺文社)を参考に説明すると、
①「a」(1つの物体のほか、話の中で初めて登場するもの)
There is a house.
(1軒の家がある)※「1軒」の家を表現している。話の中で初めて登場する場合も、この形となる。
②「the」(普通名詞とくっつき、ある特定のものを説明する)
This is the house.
これが、あの家だ。(聞き手や話し手がすでに知っているものを説明している)
There are the houses.
あそこに家がある
③「the」と一緒に用いて特定の固有名詞を表すケース
河川・海洋 | the sea of Japan |
山脈 | the Himalayas |
群島 | the Philippines |
海峡・半島 | the Izu Peninsula |
運河 | the Suez Canal |
砂漠 | the Sahara |
船舶 | the Titanic |
官公庁 | the Ministry of Foreign Affairs |
博物館・図書館・劇場 | the British Musium |
新聞・雑誌 | the times |
団体名 | the Republican party |
④複数名詞(総称用法)
Whales are mammals.
鯨は、ほ乳類である。(種族全体を説明している)
I like apples.
私は、リンゴという食べ物が好きだ。
いかがでしょうか。
中学生のように「the」を「その」と訳していては、③の固有名詞に、「the」がなぜ付いているのか、説明できません。
この使い方は特殊なものでも何でもなく、ネイティブなら誰もが普通に使っている「the」の持つ語法のひとつに過ぎません。
高校英語になり、覚えるべき語法が増えただけです。
中学英語が教える内容を簡素化している事実を認識し、どんどん新たな知識を吸収していきましょう。
①〜④までの知識がつけば、MARCHレベルの難関私大の入試に対応できる、といった感覚でしょうか。
このレベルの語法を押さえたければ、世界的な文法書ベストセラー「Grammar in use」(ケンブリッジ出版)が分かりやすいです。
通訳者も愛用するロイヤル英文法(旺文社)はさらに詳しい説明が載っているので、上級レベルに進んだら、ぜひ手元に置いておきましょう。
謎解きの英文法シリーズ
日本語で書かれた文法書のうち、ロイヤル英文法は、他に類を見ないほど充実した内容に仕上がっているのですが、それでも完璧ではありません。
同書を使っていて、疑問点が出るまで英語が上達したら、副読本のような扱いで「謎解きの英文法」シリーズを使ってみましょう。
「冠詞と名詞」「単数か複数か」「省略と倒置」編など、全11冊が刊行されています。
他の文法書が20〜30ページを割いている部分を、1冊200ページまるごと使い、豊富な例文で解説しているのが特徴です。
文体も柔らかく、説明上手な講義を受けているような感覚で読み進められます。
著者は、ハーバード大名誉教授の久野暲さんと、学習院大学文学部教授の高見健一さん。
「これまで教わってきたことが実は間違いである」という現象を取り上げており、私も同書を見つけた時は「まさに、このような本が欲しかった」と感激しました。
では具体的に、どのような内容が書かれているのでしょうか。
「冠詞と名詞」編
「謎解きの英文法」シリーズ第1作目は、「冠詞と名詞」編になります。
若干内容を紹介させていただきますが、皆さんは国際線の飛行機で「Beef or Chicken」と機内食をどちらにするか聞かれ、鶏肉を選択する際、どのような英文で回答するでしょうか。
「I like a chicken」
上記の英文は正解でしょうか。
不正解だとしたら、どこが間違っているか、指摘できるでしょうか。
いかがでしょうか。
英語自体は簡単なのですが、戸惑った方は多いのではないでしょうか。
私も問題を解くことができなかった一人です。中学、高校時代の授業で、習った記憶は一切ありません。
もちろん落ち込む必要はありません。「謎解きの英文法」が抜群の効果を発揮する、英語学習の味方になってくれるからです。
同書は、「I like a chicken」について、肉を表現する時は「a」をつけてはいけないーとし、次のように例文を挙げて説明しています。
- There is a chicken over there.
- あそこに鶏がいるよ。※明確な形を持つ、1個の個体を表現する。
- I like chicken.
- 私は鶏肉が好きです。※個体として、明確な形を持たない。
- This is a lobster.
- ※大皿に、ロブスター一匹がまるごと乗っている
- This is lobster.
- ※パンに挟んでいる、ロブスターの肉を表現する
「a」をつけると、生きている1匹の鶏を表現することになり、機内食を選ぶ際の回答としては、非常に違和感があることが、お分かりでしょうか。
鶏肉を選びたいなら、「I want chicken」と伝えるのが、正解ということになりますね。
ぼんやりと「I want a chicken」と言ってしまいそうですが、これでは「鶏1匹をください」と伝わってしまいます。
もうひとつ「謎解きの英文法 冠詞と名詞」を元に、単数名詞と複数名詞の語法に関する事例を紹介したいと思います。
下記の4つの英文のうち、間違っているものはどれでしょうか。
- Q. あなたは何かペットを飼っていますか。
- A. I have a kitten.(私は子猫を飼っています)
- Q. あなたが欲しいものは何ですか。
- A. I want a kitten.(私は子猫がほしい)
- Q. あなたが好きな果物は何ですか。
- A. I like an apple.(リンゴです)
- Q. あなたの趣味は何ですか。
- A. I read a book.(読書です)
いかがでしょうか。
解答は、「3と4が間違い」になります。
この問題では、複数名詞の総称的用法が問われています。
「3」は、I like apples.
「4」は、I read books.
としなければなりません。
「3」の「an apple.」については、好きな果物の種類を聞いているのに、リンゴ一個を特定して「好きです」と表現する形になり、不自然に聞こえるので間違いになります。
「4」に関しても、私たちが読書することを趣味だと言う際、一冊の本だけを読むのではなく、複数の本を読むことを念頭に回答するので、I read booksと複数形を使います。
ただし、例外として、「I read a book」が正解となる場合もあります。
特定の1冊(聖書など)だけを毎日、習慣的に読むことを表現するケースです。
「謎解きの英文法」は、このような形で丁寧に、文法の例外規則まで説明しているのが特徴です。
まとめ
冠詞や単数名詞、複数名詞の語法について、学校教育では短時間で済ませがちですが、個人的には最も奥深いものだと考えています。
例外規則が多いので、おそらく一冊の文法書でまとめ切ることができないのだと思います。
ロイヤル英文法も「たくさん英文を読む中で、徐々に語法が分かってくる」という趣旨の記述をしており、ネイティブのように英語を話すには膨大な時間を費やす必要があるのかもしれません。
とはいえ「謎解きの英文法」などの良書を活用することで、英語の上達速度が早まることは間違いありません。
英語力が上級レベルに達し、それまでに習った文法知識で解決できない場面に出会した時は、ぜひ同書のシリーズ11冊を活用してみてください。